2025年、海外渡航はようやく本格的な回復を見せ、多くの人がビジネスや観光で世界中を飛び回るようになりました。それに伴い、渡航先での快適なインターネット接続は、もはや必須インフラと言えるでしょう。現地のプリペイドSIMや、渡航者向けのグローバルSIM、そして近年急速に普及しているeSIMなど、選択肢は豊富です。しかし、いざ現地に到着し、「さあ、スマホを使おう!」と思った瞬間、「圏外」の表示に愕然とした経験はありませんか?
地図アプリで目的地を調べたり、翻訳アプリを使ったり、家族や友人と連絡を取ったり…。スマートフォンが使えないだけで、海外での行動は著しく制限され、大きな不安に繋がります。
この記事では、そんな「海外でSIMが繋がらない」という絶望的な状況を解決するための完全ガイドです。APN設定のミスやデータローミング設定の漏れといった初歩的な原因から、スマートフォンの対応バンド(周波数帯)といった少し専門的な問題まで、考えられる原因を一つひとつ丁寧に解説し、今すぐ試せる具体的な対処法を順を追ってご紹介します。
この記事を読み終える頃には、あなたはSIMトラブルに冷静に対処できる知識を身につけ、万が一の事態にも慌てず対応できるようになっているはずです。渡航前の準備のチェックリストとしても、現地で困った時のトラブルシューティングマニュアルとしても、ぜひご活用ください。
【ステップ1】トラブルの大半はこれで防げる!渡航前に必ず確認すべき4つの重要事項
海外でSIMが繋がらないというトラブルの多くは、実は日本にいる間の準備不足が原因です。現地で慌てないためにも、以下の4つの項目は必ず出発前に確認しておきましょう。
1. お使いのスマートフォンは「SIMフリー」ですか?SIMロック解除の確認
日本の大手キャリア(docomo, au, SoftBankなど)で購入したスマートフォンには、特定の会社のSIMカードしか利用できないようにする「SIMロック」がかかっている場合があります。この状態のままでは、海外のSIMカードを挿入しても認識されず、通信することはできません。
2021年10月以降に発売されたスマートフォンは、原則としてSIMロックが禁止されているため、基本的にSIMフリーです。 しかし、それ以前に購入した端末や中古で購入した端末をお使いの場合は、SIMロックがかかっている可能性があります。
【SIMロック解除の確認方法】
- iPhoneの場合: 「設定」>「一般」>「情報」の順に進みます。「SIMロック」または「キャリアロック」の項目に「SIMロックなし」と表示されていれば、お使いのiPhoneはSIMフリーです。「SIMロックあり」と表示されている場合は、購入元のキャリアに連絡してSIMロック解除の手続きが必要です。
- Androidの場合: 「設定」>「デバイス情報」>「SIMカードステータス」などの項目で確認できます。機種によって表示が異なりますが、「SIMロックステータス」が「許可」や「ロック解除されています」となっていればSIMフリーです。不明な場合は、契約しているキャリアのマイページやショップで確認するのが確実です。
SIMロック解除は、キャリアのウェブサイトからであれば無料で手続きできる場合がほとんどです。電話やショップでの手続きは手数料がかかることがあるため、ウェブでの手続きをおすすめします。
2. スマホと渡航先の相性をチェック!「対応バンド(周波数帯)」の確認
これが意外な落とし穴であり、SIMトラブルの専門的な原因の代表格です。スマートフォンが通信を行うためには、国や地域、そして通信会社ごとに割り当てられた電波の通り道である「バンド(周波数帯)」に対応している必要があります。
例えば、日本で主に使われているバンドと、アメリカやヨーロッパで使われているバンドは異なります。そのため、お使いのスマートフォンが、渡航先で利用したいSIMカード会社が提供するバンドに対応していない場合、SIMカード自体に問題がなくても電波を掴むことができず、「圏外」となってしまうのです。
【自分のスマホの対応バンドを確認する方法】
お使いのスマートフォンの製品名(例:「iPhone 16 Pro」「Google Pixel 9」など)に「対応バンド」や「スペック」というキーワードを加えてウェブ検索するのが最も簡単で確実です。メーカーの公式サイトや、スマートフォンのスペックをまとめている情報サイトで確認できます。
【利用するSIMカードの対応バンドを確認する方法】
購入を検討している海外SIMカードの販売サイトや、利用予定の現地通信キャリアの公式サイトで確認します。「Network Frequency」や「Supported Bands」といった項目に記載されていることが多いです。
この2つの情報を照らし合わせ、自分のスマートフォンが、利用したいSIMカードの主要なバンド(特に4G/LTEや5Gのメインバンド)に最低1つ以上対応しているかを必ず確認してください。特に、日本国内モデルのAndroidスマートフォンは、海外のバンドへの対応が限定的な場合があるため、注意が必要です。

これは海外のみならず国内でスマホを買う時も注意しないとね!
3. 契約内容は大丈夫?データ容量・利用期間・対象国の再確認
購入したSIMカードのプラン内容を改めて確認しましょう。意外と見落としがちなポイントです。
- データ容量・利用期間: 「5日間で10GB」のプランなのに、6日目に使おうとしていたり、既に10GBを使い切っていたりしませんか?
- 対象国: 「ヨーロッパ周遊SIM」と書かれていても、スイスや一部の東欧諸国は対象外、といったケースがあります。乗り継ぎで立ち寄った国が対象外だった、ということも考えられます。購入したSIMカードが、あなたが渡航する全ての国をカバーしているか、再度確認しましょう。
4. SIMカードはどこで手に入れましたか?
Amazonや楽天などのECサイト、あるいは海外の空港などでSIMカードを購入する方が多いでしょう。もし可能であれば、購入元の販売ページのQ&Aやレビューに目を通しておくことをお勧めします。同じようなトラブルと、その解決策が投稿されている場合があります。また、後述するAPN設定情報や、トラブル時のサポート連絡先もこの時点で控えておくと、万が一の際に非常にスムーズです。
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【ステップ2】現地に到着!繋がらない時にまず試すべき4つの基本対処法
渡航前の準備は万全のはずなのに、なぜか繋がらない。そんな時は、慌てずに以下の基本的な対処法を上から順番に試してみてください。驚くほど簡単な操作で、あっさり解決することが少なくありません。
1. 機内モードのオン・オフ
スマートフォンが新しいネットワーク環境をうまく認識できていない場合、最も手軽で効果的なのが「機内モード」の活用です。
- スマートフォンのコントロールセンターやクイック設定パネルから「機内モード」をオンにします。
- 10秒〜30秒ほど待ちます。
- 再び「機内モード」をオフにします。
この操作により、スマートフォンの通信機能全体が一度リセットされ、現地の電波を改めて探しにいきます。これにより、正しいネットワークに接続されることがあります。まずはこれを試すのが鉄則です。
2. スマートフォンの再起動
機内モードのオン・オフで解決しない場合、次に試すべきはスマートフォンの再起動です。PCの調子が悪い時に再起動するのと同じで、一時的なソフトウェアの不具合や、メモリ上に残った不要なデータが原因で通信がうまくいかない場合に非常に有効です。
単純な操作ですが、多くの通信関連のトラブルは再起動によって解決します。面倒くさがらずに、一度電源を完全にオフにし、少し時間をおいてから再度電源を入れてみてください。
3. SIMカードの挿し直し
物理的な接触不良が原因で、SIMカードが正しく認識されていない可能性も考えられます。特に、移動中の衝撃などでSIMカードがわずかにズレてしまうことがあります。
- スマートフォンの電源を完全にオフにします。
- SIMピンを使ってSIMトレイを取り出します。
- SIMカードを取り出し、ICチップ(金色の部分)を乾いた柔らかい布で優しく拭きます。皮脂やホコリが付着している場合があります。
- SIMカードを正しい向きでSIMトレイにしっかりとセットし、スマートフォンに戻します。
- スマートフォンの電源をオンにします。
eSIMを利用している場合は、この手順は不要です。
4. 場所を移動する
意外と見落としがちなのが、単純に「電波が悪い場所にいる」という可能性です。特に、空港の地下や建物の中、エレベーター内、高層ビルの谷間などは電波が届きにくいことがあります。
少し場所を移動して、屋外や窓際など、電波を掴みやすそうな場所で再度試してみてください。しばらくするとアンテナピクトが立ち、通信できるようになる場合があります。
【ステップ3】設定を見直そう!中級者向けトラブルシューティング
基本的な対処法を試しても繋がらない場合は、スマートフォンの設定に問題がある可能性が高いです。少し専門的な内容になりますが、一つひとつ確認していきましょう。ここが解決への最大の関門です。
1. 最重要チェック項目!「データローミング」はオンになっていますか?
海外SIMを利用する際に、最も多くの人がつまずくのがこの「データローミング」の設定です。
「データローミング」とは、契約している通信事業者の電波が届かない場所で、提携している現地の通信事業者のネットワークを借りて通信する機能のことです。日本のキャリアのSIMを使っている場合、これをオンにすると高額な請求が発生する可能性があるため、「海外ではデータローミングは必ずオフに!」と認識している方が多いかもしれません。
しかし、海外旅行者向けのプリペイドSIMやグローバルSIMを利用する場合、現地の提携ネットワークを使って通信するのが前提となっているため、データローミングを「オン」にしないと通信が開始されません。 これは非常に重要なポイントです。
【データローミングの設定方法】
- iPhoneの場合: 「設定」>「モバイル通信」>(利用するSIMを選択)>「データローミング」をオン(緑色)にします。
- Androidの場合: 「設定」>「ネットワークとインターネット」>「SIM」>(利用するSIMを選択)>「ローミング」をオンにします。(機種により文言が若干異なります)
日本のSIMと海外SIMの2枚を入れている場合(デュアルSIM)、海外SIMの方のデータローミングがオンになっていることを確認してください。
2. 最後の砦!「APN設定」を正しく行う
データローミングをオンにしても繋がらない場合、次に疑うべきは「APN(アクセスポイント名)」の設定です。
APNとは、スマートフォンがインターネットに接続するための「接続先情報」のことです。スマートフォンにSIMカードを挿入すると、通常はこのAPN設定が自動的に行われますが、SIMカードの種類やスマートフォンの機種によっては、自動設定がうまくいかず、手動で設定情報を入力しないとインターネットに接続できない場合があります。
【APN設定情報の入手方法】
APN設定に必要な情報は、通常、SIMカードが付属していたパッケージや説明書、あるいは購入元のウェブサイトに記載されています。以下の情報が必要になります。
- APN(アクセスポイント名)
- ユーザー名
- パスワード
- 認証タイプ(PAPまたはCHAPなど)
ユーザー名やパスワードは空欄の場合も多いです。
【APNの手動設定方法】
▼iPhoneの場合
iPhoneは、通常、SIMを挿入するとキャリア設定が自動でアップデートされるため、手動でのAPN設定項目が存在しないことが多いです。しかし、格安SIMなどでは「構成プロファイル」をインストールすることでAPN設定を行う必要があります。
- Wi-Fiに接続できる環境を探します。
- SIMカードの販売元が指定するURLにSafariでアクセスし、「構成プロファイル」をダウンロードします。
- 「設定」アプリを開くと、「プロファイルがダウンロード済み」という項目が表示されるので、それをタップします。
- 画面の指示に従い、プロファイルをインストールします。パスコードの入力を求められる場合があります。
- インストール後、モバイルデータ通信が利用できるか確認します。
▼Androidの場合
- 「設定」>「ネットワークとインターネット」>「SIM」>(利用するSIMを選択)の順に進みます。
- 「アクセスポイント名」をタップします。
- 画面右上の「+」やメニューボタン(︙)から「新しいAPN」を選択します。
- SIMカードの提供元から指定された「APN」「ユーザー名」「パスワード」「認証タイプ」などの情報を正確に入力します。大文字・小文字、半角・全角も区別されるため、一字一句間違えないように注意してください。
- 入力後、メニューボタンから「保存」を選択します。
- 作成したAPNの右側にあるラジオボタンをタップして選択します。
- スマートフォンを再起動するか、機内モードのオン・オフを試して接続を確認します。
設定項目 | 入力内容の例 | 備考 |
名前 | 自由に設定可能(例: Travel SIM) | 自分が識別しやすい名前でOK |
APN | internet や plus.4g など | SIM提供元の指定通りに正確に入力(最重要) |
プロキシ | 未設定または空欄 | 指定がない限り入力不要 |
ポート | 未設定または空欄 | 指定がない限り入力不要 |
ユーザー名 | user など | 指定がある場合のみ入力 |
パスワード | pass など | 指定がある場合のみ入力 |
サーバー | 未設定または空欄 | 指定がない限り入力不要 |
MMSC | 未設定または空欄 | 指定がない限り入力不要 |
MMSプロキシ | 未設定または空欄 | 指定がない限り入力不要 |
MMSポート | 未設定または空欄 | 指定がない限り入力不要 |
MCC | 440 など(自動で入ることが多い) | 日本の場合は440や441。変更しない。 |
MNC | 10 など(自動で入ることが多い) | 日本の場合はキャリアごとに異なる。変更しない。 |
認証タイプ | PAPまたはCHAP など | 指定がある場合のみ選択 |
APNタイプ | default,supl など | 指定がある場合のみ入力 |
APN設定は、海外SIMトラブル解決の鍵となることが多いため、落ち着いて正確に入力しましょう。
3. 通信事業者のネットワークを手動で選択する
通常、スマートフォンは利用可能なネットワークを自動で検索し、最適なものに接続します。しかし、何らかの理由でうまく接続できない場合、手動でネットワークを選択することで解決することがあります。
【ネットワークの手動選択方法】
- iPhoneの場合: 「設定」>「モバイル通信」>(利用するSIMを選択)>「ネットワーク選択」>「自動」をオフにします。
- Androidの場合: 「設定」>「ネットワークとインターネット」>「SIM」>(利用するSIMを選択)>「ネットワークを自動的に選択」をオフにします。
- オフにすると、利用可能な通信事業者の一覧が表示されます。
- SIMカードの提供元が提携している通信事業者(説明書などに記載されています)を選択します。複数ある場合は、上から順に試してみましょう。
- 接続が成功するかどうかを確認します。
これは最終手段に近い方法ですが、特定のネットワークにしか接続できない設定になっているSIMカードの場合などに有効です。
【ステップ4】それでも繋がらない…万策尽きた時の最終手段
これまでの全てのステップを試してもなお「圏外」のまま…。そんな絶望的な状況でも、まだ諦めるのは早いです。次に取るべき行動を冷静に進めましょう。
1. SIMカード提供元のサポートに連絡する
購入したSIMカードの販売元や提供元のカスタマーサポートに連絡しましょう。空港のカウンターで購入した場合はその場ですぐに相談できますが、オンラインで購入した場合は、メールやチャットでの問い合わせが主になります。
その際、以下の情報を正確に伝えると、問題解決がスムーズになります。
- 購入したSIMカードの商品名・注文番号
- お使いのスマートフォンの機種名(例: iPhone 16 Pro, Google Pixel 9)
- 現在地(国・都市名)
- 発生している問題の詳細(例: 「圏外のままでアンテナが立たない」「アンテナは立っているがデータ通信ができない」など)
- 既に試した対処法(例: 「再起動、データローミングオン、APN設定は試しました」など)
公共のWi-FiやホテルのWi-Fiなどを活用して連絡を取りましょう。
2. 2025年の新常識「eSIM」を検討する
もしお使いのスマートフォンがeSIMに対応しているなら、これは非常に強力な選択肢となります。eSIMは物理的なSIMカードを必要とせず、オンラインで契約・設定が完結するデジタルのSIMです。
物理SIMが繋がらない原因がSIMカード自体の初期不良や、配送中の破損だった場合、eSIMであればその心配がありません。Wi-Fi環境さえあれば、その場で即座に新しい通信プランを契約し、利用を開始できます。
2025年現在、多くのスマートフォンがeSIMに対応しており、海外渡航者向けのeSIM販売サービス(例: Airalo, Ubigiなど)も充実しています。現地で急遽インターネット環境が必要になった際の、まさに「駆け込み寺」的な存在と言えるでしょう。
eSIMのメリットと注意点
メリット | デメリット・注意点 |
即時開通: オンラインで購入後、すぐに利用開始できる | 対応機種: 比較的新しい機種でないと対応していない場合がある |
物理的な紛失・破損リスクなし: SIMの入れ替えが不要 | 初期設定: QRコードの読み込みなど、初回設定にはWi-Fi環境が必須 |
デュアルSIM運用が容易: 物理SIMと併用して使い分けが可能 | 電話番号: データ通信専用で、電話番号が付与されないプランが多い |
トラブル時の代替手段として優秀: 物理SIMがダメでもすぐに試せる | 譲渡・再利用不可: 一度端末にインストールしたeSIMは他の端末で使えない |
まとめ:落ち着いた対処が、海外での快適な通信を取り戻す鍵
海外でスマートフォンが「圏外」になるというトラブルは、誰にでも起こり得るアクシデントです。しかし、その原因の多くは、本記事で紹介したような設定の見落としや、事前の準備不足に起因します。
トラブルに遭遇した際は、まず慌てずに「機内モードのオン・オフ」や「再起動」といった簡単な基本操作から試してみてください。 それでダメなら、「データローミング」や「APN設定」といったスマートフォンの設定を落ち着いて確認します。渡航前に「SIMロック解除」や「対応バンド」を確認しておくことが、そもそもこうしたトラブルを回避する最善の策であることは言うまでもありません。
そして、2025年の今、eSIMという強力なバックアッププランがあることも覚えておきましょう。万が一の時でも、Wi-Fiさえ見つければ新たな通信手段を確保できるという安心感は、海外での心細さを大きく和らげてくれるはずです。
この記事が、あなたの海外渡航をより快適で安心なものにするための一助となれば幸いです。準備を万全に、そしてトラブルには冷静に。素晴らしい旅をお楽しみください。
参照文献
- glocalme (2024)「【海外SIM】繋がらない原因は?パターン別対処法とおすすめのWiFiルーター」, Glocal Me. 閲覧日: 2025年8月9日. https://www.glocalme.com/jp/sim-card-not-working-troubleshooting
- HISモバイル (2024)「海外SIMが繋がらない!設定・使い方や注意点、おすすめの格安SIMを解説」, HISモバイル. 閲覧日: 2025年8月9日. https://his-mobile.com/column/kaigai-sim_connect-fail
- NewSphere (2024)「海外でSIMカードが使えない・繋がらない!原因と対処法を解説」, NewSphere. 閲覧日: 2025年8月9日. https://newsphere.jp/business/20240327-1/
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